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高森明勅
2011.11.27 12:55

「産経抄」の能天気

11月26日の『産経新聞』のコラム「産経抄」を読んで呆れた。

羽毛田信吾宮内庁長官が首相に「女性宮家」の創設を要請した件に絡んだ一文で、
さしあたり悠仁殿下がおられるから「皇位継承に何の心配もない」
「その後のことはじっくりと衆知を集めれば良い」などと太平楽を並べている。

信じ難い危機感の無さだ。

皇室典範の改正は本来、天皇陛下が、皇族方と信頼出来る顧問らにお諮りになった上で、自らお定めになるのが筋だ。

だが、現在の憲法の下では100パーセント「国会の議決」に委ねることになっている(第2条)。

つまり政治的案件にされてしまったのである。

そのために、奇怪千万なことながら、皇室の基本を定める皇室典範の改正について、
天皇陛下はじめ皇族方は一切、直接の発言が出来ないお立場におかれている。
だが、今のまま事態が推移すれば、内親王・女王方はご結婚と共に皇室を去られて、悠仁殿下がご即位になる頃には、皇族が誰もいない状態になってしまう。 僅かに殿下と、もし結婚されていれば妃殿下と、更にお子様が生まれていればそのお子様だけが、皇室の全メンバーということになる。 悪夢のような事態というべきだ。 だが、今のうちに手を打っておかなければ、そうした事態が確実に訪れる。 悠仁殿下即位後のことは「じっくりと」などと能天気なことを言っていられる場合ではない。 だからこそ、羽毛田長官は「緊急性の高い課題」として、政府の速やかな対応を求めたのである。 「女性宮家」の創設については、以前から渡邉允前侍従長が繰り返し訴えておられる。 天皇陛下が皇室典範の改正について直接、ご発言出来ない制約の下にあられるなか、陛下のお側近くで仕える宮内庁長官と、 10年以上も陛下の側近として仕えてきた前侍従長が、揃って「女性宮家」の創設を求めている事実が何を意味するか、余りにも明白ではないか。 政府も国会議員もマスコミも、異常なまでの鈍感さと言わねばならない。陛下の声に出せないお声が、聞こえないのか。
高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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